医療現場の十人十色  人の生き様と死に際

数年前、看護婦のT.Kさんは、自分の部署に52名の患者を抱えていた。

頭痛を訴える患者さんに、水とお薬を持っていった。

「いや~、すんませんなあ。
お忙しいのに、お手を取らせて、ほんまにスンマセン。
我慢しよう思ってたんやけど、やっぱり我慢しきらんかった。
ありがとう。スンマセン。ほんまに申し訳ない」

ある患者さんに、いつもの定期薬を持っていった。

「オイ、お前。***剤の効能知ってるか?
副作用知ってるか?
え? 知らんの?
お前、それでも看護婦か!
ようそんなんで看護婦やってるなあ。呆れるわ。
俺の所に来るときは、もっと勉強してから来い。ばかやろう」

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「患者さん、医療機器の誤作動を防ぐため、病院内での携帯電話の
使用は控えていただけませんか」と言った時……


厚生省に抗議の電話をかけた人 ← 今も語りぐさ

・「あ、これは失礼」とスイッチを切って、カバンに直す人

・「医療機器って、そんなに頼りないものなのか。
いったい何の根拠があって、そんなことを言うんだ。

携帯電話が使えなかったら、オレはどうやって会社と連絡を
取ればいいんだ。どれだけオレが忙しいか、解っているのか!」
と怒り出す人

……いろいろだ。

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「王様は裸だ!」と言った時……

・「王様は裸だ」と叫んだ子供をブン殴る王様

・「王様が裸なのには訳があるのだ」と自己弁護を始める王様

・嘘を付いた仕立て屋を処刑する王様

・家来に「オレはどうすれば良いんだ?!」とうろたえる王様

・「どうして騙されちゃったんだろう」と考える王様

・自分の裸を見た国中の人間を牢屋に入れる王様


「世界に一つしかない着物が見えないのか!」とムキになる王様

・もう二度と人前に顔を出せなくなる王様

……いろいろだ。

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「A子ちゃん、今度、結婚するらしいよ~」と聞いて……、

・「わあ、良かったねえ。幸せにね」と喜べる人

・「どんな男? @@の会社員? 大したことないな」とケチつける人

・「マンション買って4000万のローン? 姑と同居? うわ、ヒサン」

と先々の不幸を期待する人

・「仕事辞めれて、いいなあ」と羨む人

・無関心を装う人

……いろいろだ。

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「この指、と~まれ」と自分が指を差し出した時、

止まらなかった人を見て……

・止まった仲間と一緒に悪口を言う人

・「気が向いたら、おいでね」と声をかける人

・「オレには人気が無いのか……」と一人悶々とする人

・「オレを無視しやがって」と恨む人

・「どうして止まらなかったのかな」と考える人

……いろいろだ

*

「本日の@@先生の診察は、2時間~3時間待ちになります」

と聞いて……

・「なんじゃー、それは! 2時間も3時間も待てるかい!
お前んとこのシステムはどうなっとるんじゃ!院長呼べ、院長!」
と怒り出す人。

・「@@先生って、要領が悪いんとちゃうか」と陰口を言う人

・「自分がゆっくり診て欲しいように、他の人もゆっくり診て欲しいんやから、待つのはしょうがないなあ」と考える人

・「よっしゃ、次から朝の5時に来て、順番とるでえ」と張り切る人

・「早く診て欲しかったら、++先生の方がええで。
え? 心臓が悪いの? ほな@@先生やな。##大学の医学部出身や」

やたらと病院事情に詳しくて、見知らぬ患者に説明したがる人

(あちこちの病院を渡り歩いているバアさんに多い)

……いろいだ

*

採血を失敗した新米看護婦に……

・「ほほ、私の血管は採血しにくいと有名なの。
婦長さんしか出来ないのよ」と自慢げに言う人

・ 「頑張って、もう一回やってごらん。ボクは大丈夫だから」

と言う人。

・「他の奴に変われ! お前は二度と来なくていい!」と怒る人

・「悪いわね~。私の血管細くって、採血しにくいでしょ。
申し訳ないぐらいよ」と自分で腕を叩く人

……いろいろだ

*

道端で石ころにつまずいて、こけた時……

・「なんでお前がここにいるんだ!」と石ころに怒鳴る人

・「ああ、これだけのケガで済んだ。ありがたや」と思う人

・「オレはやっぱりついてない」と暗くなる人

・「痛いよー、誰か助けてくれよー」といつまでも泣いてる人

……いろいろだ

世の中、いろんな人がおる。

みな同じ人間と思って接すると、へとへとになって消耗する。

非常に残念なことだが、人がどんなに心を尽くしても、その心が分からない人っているものだ。

人と接する時は、よくよく相手を観察すること。

そして自分にとって誰が大切な人間かを見極めることだ。

Marieの最も好きな言葉。

【死は人生の集積(インテグレート)である】 “死に様”とは“生き様”のこと。

死の際には、その人の人生の全てが凝縮して現れる。

死に際が不幸なら――心満たされぬまま死んでいくなら、いくら生きている間に財産を築こうが、高い地位に上り詰めようが、まるで無意味なこと。

死に瀕して人が望むのは、自分の全存在と人生に対する『YES』の一言だから。

どんな悪しき行いにまみれた人も、最期には赦しを求める。

否定には肯定を、悲しみには慰めを、孤独には優しさを――

人間にとって、「死」という最も大事な瞬間に立ち会う医療スタッフは、その人の死が平和で、満ち足りたものになるよう、努めなければならない。

死の瞬間が幸福なら、それで全ての負が補われて余りあるから――。

正直、死ぬのは苦しい。

人間、そうカッコ良く死ねるものではない。

私が知る限り、ほとんどの人間は、苦しみながら死んでいった。

特に、意識が無くなる2~3日前が一番苦しそうだった。

あれは名状しがたい苦しさだ。

不思議なのは、亡くなる一週間ぐらい前から、ほとんどの人が幻覚を見ること。

それも大抵、あの世にいる自分の両親や配偶者が「見える」という。

「お迎えが来る」というのも、あながち嘘ではないような……。

そう信じる事で、気が安らぐのなら、

「ああ、そう。良かったねえ。心配して見に来てくれたのねえ」

ぐらいは言っておこう。

間違っても、「バカいって!」などと言わないように。

そして、その幻覚が終わった頃、不思議と静かになる。

「魂が抜ける」とでもいうのだろうか。

なんかもう、心は別世界、という感じになる。

死が近づくにつれ、『仏さま』のような顔になる人もあれば、まだ何か物欲しげ、物言いたそうに、顔を歪めている人もある。

修羅か般若のような顔つきの人もいる。いろいろだ。

が、いろいろ尽くしても、救いきれぬのが人の心。

どんな薬や技術を用いても、治せぬものが限りなくある。

最期になって、ジタバタしても、過ぎた時間は二度と返らない。

今日という日、今日出会う人を、大切にして下さい。

*

・「この世に神も仏もあるものか! いったいオレが何をした!」
と怒りながら死んでいく人

・「ああ……あの時あれをすれば良かった。これもしとけば良かった」
と後悔しながら死んでいく人

・「人生って不思議なもんやなあ」
と神秘の思いに包まれながら死んでいく人

・まだ息があるのに、病室の外で、親族一同に、
「なあ、ちょっと、葬式はどこの寺でする?」
「財産の事とか、誰か聞いてたか?」
「ほんまにもー、明日、大事な商談があるんやけどなー」
と言われながら死んでいく人

・「いろいろ、ようしてくれて、ありがとうなあ」
と家族や医療スタッフに感謝しながら死んでいく人

・「ああ、これでやっとお父ちゃんの所に行ける……(壁を指差し)
あっ、あそこにお父ちゃんが立ってはる、お父ちゃ~ん」
と亡夫(あるいは実父)にお迎えに来てもらって死んでいく人

・家族に体中をさすってもらって、
「しんどいやろ、苦しいやろ。もう頑張らんでええから、早う逝き!
早う目ェ閉じ!
……(ようやく呼吸が止まって)ああ、よかった、
よう頑張ったなあ。しんどかったなあ。もうゆっくり休みやあ」
と皆に介抱されながら死んでいく人

・家で倒れ、息子が救急車を呼びに行こうとした時、
「もうええ、呼ぶな! 寿命じゃ! わしはもう長いこと生きた。
ええ人生やった。このまま死なせえ」
と息子に抱かれながら息を引き取った、Marieの祖父。
  → 明治生まれの帝国軍人。男らしくて好きだった。

・「ああ~、ええお風呂やった。わし、もう寝るで」
そのまま布団の中で息を引き取った人。

・「@@@のおじいちゃん、いつもこの時間に診察に来るのに、
おかしいねえ」と、警察と看護婦が仮設住宅に見に行ったら、
テーブルに突っ伏したまま死んでいた人。

・大晦日の日、家族の都合で入院させられて、紅白が始まる頃、
自分で点滴をひきちぎって、飛び降り自殺した人。

・「ああ、苦しい、助けてぇ~~~。横になりた~い……
一分でもいいから、横になりたい……息が苦しぃ……」
と、座ったまま死んでいった人。
  
呼吸器系のガンの末期は苦しい。

横になると気道が閉塞されて、呼吸困難におちいるので、
寝る時も座ったままだ。お尻に褥創ができて辛い。

呼吸困難になって、座ったまま死ぬのがイヤなら
タバコはやめたほうがいい。肺ガンになる確立が高い。

・わけあって天涯孤独の身。
「最期の時ぐらい、誰かがついてやらないかん」と
主治医が2時間、付きっ切りで最期を看取った人。

・2歳半の女の子を横紋筋肉腫(悪性疾患)で亡くしたお母さん。
「この子が、私の人生の不幸をすべて背負って逝ってくれた」
子供はもう作らない、と。

・「私? もうすっかり元気になったわよ。大丈夫、大丈夫 」
夜中の見回り時、ベッドの中で手首を切っているのを発見された人

・「人生なんか、たいしたことないな」
ぼそっとつぶやいて死んでいった人

・生きながら、臓器や陰部の肉が腐って、体外に流れ出して、
「アタシ、臭い? 臭いのゴメンネ」といつも看護婦に言っていた
19歳の卵巣ガンの女の子。お母さんがいつも綺麗に髪をすき、
フリルのネグリジェに着替えさせて、病室中を花で飾っていた。

・「私はもう88年も生きた。素晴らしい人生だった」
と微笑みながら死んでいった人

・自宅でずっと、ばあさんが看病していたじいさん。
「お~い、ばあさんよ。しんどいぞ。口が渇くぞ」
「も~、さっき、お水をやったろうが。
ほんまにアンタは世話の焼けるお人やな。ちょっと待っとり」
「ばあさんよ、ばあさんよ……」
で、ばあさんがコップに水を汲んで戻ってきたら、
じいさんが静かになっている。
「なんや、人がせっかく水汲んできたのに。もう寝たんか。
ほんまにも~。アテも、もう寝よ」と横に布団を引いて寝た。
そして朝になって、じいさんが息をしていないのに気付き、
お嫁さんを呼んだ。ばあさんは泣きながら怒ってた。
「じいさんよ、あんたは死ぬ時も勝手やな!
アテが横に寝取ったのに、なんでアテを一緒に連れて行かんのや」
家族でじいさんの身体を拭き、綺麗な着物に着替えさせた。
亡骸を棺桶に入れるまで、
ばあさんは、ずっとじいさんの側から離れなかった。

……いろいろだ。

初稿:99/07/28  メールマガジン 【 Clair de Lune 】 より 

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