映画

Calling you 生きる希望と優しさと / 映画『バクダッド・カフェ』より

2010年4月28日

私が初めてこの映画を見たのは、「失恋」「失業」「病気療養」と、不幸(?)がトリプルで重なった秋の日の事だった。
手術の傷も癒えず、自宅で悶々としている私に、「何も考えずに、ボーッと見たらいいよ」と友達が勧めてくれたのがきっかけだ。

それまでも、女性誌などで「おすすめの映画」としてよく取り上げられていたし、レビューの評価も上々だったので、興味はあったのだが、どちらかといえば、アクションやSFの方が好きな私は、この手のまだるっこい人間ドラマはずっと後回ししてきたのだった。

いつもクールな彼女がそれほどまでに勧めてくれるのなら、一度見てみるかと思い、さっそくレンタルして見たのだけれど、映像よりは音楽、物語よりは主題歌の「Calling you」に涙してしまった私。

この映画は女同士の友情がウリなのだけど、挿入歌にある「浮き世の悩みも 魔法で消える」の歌詞が象徴するように、幸せに生きて行くには、ほんのちょっとのユーモアと気持ちの切り替えが必要なんだよ――ということを教えてくれる、軽いタッチのドラマなのだ。


STORY

茫漠たる砂漠のど真ん中にポツンと看板を掲げる『バクダッド・カフェ』。
コーヒーマシンは朝から調子が悪いし、夫もエラそうに威張りたおして、ちっとも幸せじゃない女主人のブレンダ。

彼を追い出した後、一人、ひそかに涙を流すブレンダの前に現れたのは、大女のドイツ人ジャスミンだった。

ジャスミンもまた、ラスベガスに行く途中、夫と大喧嘩して別れてきたところ。
宿を求めて、バクダッド・カフェにやって来たのだが、まるで場違いなジャスミンにブレンダは戸惑うばかりだ。

しかし、朗らかなジャスミンに、生意気ざかりのブレンダの子供達も、周囲の住民も、心を開いて慕い寄るようになり、砂漠のしけたカフェは次第に活気を取り戻していく。

そんなジャスミンには、一つ困った問題があった。
それは、夫と別れる際、間違って夫のトランクを持ってきてしまったことだった。
トランクの中には、なぜかマジック用の道具一式が入っていて、それに興味を示したジャスミンは、みるみるマジックの腕を上げていく。

やがて彼女のマジックと明るいキャラクターは、この道を行き交うドライバーたちの評判になり、カフェは大繁盛。
満員のお客を相手に、「浮き世の悩みも 魔法で消える」と歌い、ジャスミンもブレンダもとても幸せだった。

ところが、ジャスミンのビザ無し就労が発覚し、彼女はドイツへの帰国を命じられる。

マジック・ショーが終わると、ドライバーらの足も遠のき、カフェは再び閑散としてしまう。

しかし、ジャスミンは、本国で手続きを終えると、すぐにバクダッド・カフェに戻ってきた。

彼女を慕っていた画家のルーディは早速プロポーズし、ブレンダの夫も家に戻ってきて、めでたし、めでたし……というお話しです。

この映画の要は、何と言っても、ジェヴェッタ・スティールの歌う主題歌「Calling you」。

歌詞が映画全体に素晴らしくマッチして、歌を聞いているだけで、温かい気持ちになる。

“Calling You”

A desert road from Vegas to nowhere
Some place better than where you’ve been
A coffee machine that needs some fixing
In a little cafe just around the bend

I am calling you
Can’t you hear me
I am calling you

A hot dry wind blows right thru me
Your baby’s crying and I can’t sleep
But we all know a change is coming
Coming closer sweet release

I am calling you
I know you hear me
I am calling you Oh

by JEFF BUCKLEY

ラスベガスから何処かへ続く道
あなたが今までに行ったどんな場所よりも
素敵な何処か

曲がり角にある 小さなカフェの
修理の必要なコーヒー・マシーン

私はあなたを呼んでいるの
ねえ、聞こえるでしょう?
あなたを呼んでいるの

熱く乾いた風が 私に吹き付けるわ
赤ん坊は泣きっぱなしで 眠れやしない
でも 私たちは知っているの
ささやかな変化が 
もうすぐそこまでやって来ていることを

私はあなたを呼んでいるわ
ねえ、聞こえるでしょう?
あなたを呼んでいるの

こちらはジャスミンのパワーで人気を盛り返したカフェのマジック・ショー。
マジックの道具は、ジャスミンの別れた夫のトランクに入っていた。
それまでボウボウ頭で不幸を嘆いていたブレンダははつらつと輝き、拗ねた不良娘も髪を結い上げ、愛らしい歌声を聞かせる。
「浮き世の悩みも魔法で消える」と歌われるこのパートは映画の一つの見せ場。
八方塞がりの登場人物たちが、たまたま手にしたマジックの道具から幸せの笑顔を花開かせるプロセスは、見る人に希望の光を投げかける。


関連アイテム

文句なしに映画ファンをうならせる傑作。舞台はアメリカ西部、モハーベ砂漠にたたずむさびれたモーテル「バグダッド・カフェ」。そこは日々の生活に疲れきったモーテルの女主人や、日夜遊びに明け暮れる娘、売れない画家、ピアノの弾けないピアニストなど、うだつのあがらない人々が集う場所だった。そこへやってきたのがドイツ人のジャスミン。彼女の出現は、徐々に周りを変えていく…。
本作は砂漠のように枯れ果てた人々の心に、たっぷりの水で潤いを与えてくれる映画である。砂漠色の黄色を基調に描いた映像には夕暮れ時の物憂げさがあり、バックに流れる名曲「コーリング・ユー」はひたひたと静かな感動を呼び覚ます。この歌が軽快なリズムに変わっていくにつれ、ジャスミンの魔法は花開き、人々に笑顔が戻っていく。ジャスミン役のマリアンネ・ゼーゲブレヒトの印象が強烈だ。1987年、西ドイツ作品。

こちらがDVD盤。
ジャケットの、タンクを掃除するジャスミンの姿が映画のメッセージを象徴している。
(映画の前半、ブレンダが落ち込んでいる間は映像もグレーっぽく曇っているが、ジャスミンがカフェを掃除し始めると、映像もまたクリアになっていく演出は秀逸)

ジェヴェッタ・スティールの歌うメロウで美しい『Calling you』はもちろん、突然変異的にピアノが上手な息子の弾くバッハ・インベンション、「浮き世の悩みも魔法で消える」とマジック・ショーで歌われる『ブレンダ・ブレンダ』など、映画の名場面が目に浮かぶような、聞き応えのあるオリジナル・サウンドトラック。
全体に優しい雰囲気が漂っており、何度でも繰り返し聴きたくなる。

ジュヴェッタ・スティールの「コーリング・ユー」だけ楽しみたい場合は、MP3ミュージックでどうぞ。
1曲だけ購入できます。試聴もOK。

「Calling You」を世間一般に広めたのは、ジュヴェッタ・スティールよりむしろホリー・コールという気もする。
私も一番最初に聞いたのはホリーの「Calling You」だったし、映画『バクダッド・カフェ』で歌っているのもホリーだとばかり思い込んでいたぐらい。
歌唱としてはジュヴェッタの方がスウィートで透明感があり、ホリーはJazzバラード的な歌い方をするので、私としてはやはりジュヴェッタの空に広がるような歌声に惹かれるのだけど、ホリーも悪くはない。


下記CDに収録されている『Neon Blue』。メロウで、疲れた心をほっと癒してくれます。
私個人としては、Calling youよりも気に入っています♪


ジェヴェッタ・スティールに並んで話題をさらったのが、ホリー・コールの歌う『Calling you』。
ジェヴェッタよりも、ちょっと落ち着いた歌声が新鮮な魅力を感じさせる。
ジャズのスタンダード『My foolish heart』や軽いポップ調の『Down Town』など、その他の収録曲も聞き所がいっぱい。
静かな午後にお茶でも飲みながらのんびり聞ききたいハートウォームな一枚。
特に哀愁に満ちた『Neon Blue』は秀逸。私のベスト・ソングの一つです。

ヒット曲を聴いてみたい方はこちらのMP3アルバムがおすすめ。「コーリング・ユー」も収録されています。
1曲から購入可能。試聴もOKです。

2008/12/19 加筆
「ブレンダ・ブレンダ」の映像

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