書籍と絵画

バルタサル・グラシアンの『成功の哲学』 人生を磨く永遠の知恵

2010年1月19日

正月、本棚を整理していたら、久しぶりにこの本のタイトルを見た。

 

「成功の哲学」──と言うと、「お金持ちになる方法」とか「眠りながら夢が叶う」といった、今流行の自己啓発ものを想起させるけれど、これはあくまで出版社がキャッチな目的で付けた邦題。

本当のタイトルは、「The Art of Wordly Wisdom」。

賢く生きるための処世術が網羅された本である。

手に取ったのは、10年前。

仕事や人間関係の悩みが多かった頃のことだ。

この本は、「こうしたら金持ちになる」といったハウツーものではなく、「眠りながら夢が叶う」といった疑心暗鬼の強い人にはまったく効かない内容でもない。

いわば、「頭のいいおじいさんの人生訓」といったところ。

それも17世紀から今に至るまで、ニーチェやショーペンハウアーといったヨーロッパの知識人に読み継がれた『知恵の書』だけに、書かれていることは恐ろしく現実的で、鋭い。

章立ては次の通り。

『人づきあいの知恵』32章

・ガラスのような心では人間関係はうまくいかない
・人をほめすぎると自分の評判を落とす
・やたらと愛想のよいものを信じるな
・人の欠点には慣れておけ
・人を厳しく非難してはいけない
・相手にすっかり腹を割る必要はない …etc

『自分づくりの知恵』14章

・欠点を恋人にするな
・善良すぎてはいけない
・孤高を気取らず、人々と共に歩め
・自分の最も大きな欠点を知れ …etc

『仕事に関する知恵』37章

・自分の過失と心中するな
・強情を張ってはいけない
・世評の芳しくないことには手を出すな
・身の引き時を知れ
・自分が正しいときでも譲ってみせよ
・手順よりも結果を重視せよ
・相手に目をかけ、引き立ててやれ …etc

『友情を育てる知恵』8章

・知識の豊富なものとつきあえ
・愚か者とはうきあうな
・節度をわきまえた人間のつきあえ
・愛しきってもいけないし、憎みきってもいけない  …etc

『ライバルに差をつける知恵』7章

・人と争ってははらない
・悪意に満ちた他人の目を鏡とせよ
・将来敵となりそうな者を味方につけておけ  …etc

『人から愛される知恵』22章

・真実を告げるときは慎重に言葉を選んで話せ
・無教養だと思われまいとして、へりくつを言ってはならない
・恩は一度に少しずつ、頻繁に与えよ
・窮地ははぐらかして切り抜けよ
・嘘をついてはならないし、真実をすっかい話してもいけない  …etc

『ツキと幸運を呼び込む知恵』7章

・自分の幸運の星を探せ
・幸運に恵まれても不運に見舞われても冷静さを失うな
・幸運のときにこそ不運のときに備えよ  …etc

『よりよい人生を送る知恵』33章

・何事もよい面を見るようにせよ
・自分のまわりにこれぞという人間を集めよ
・考えるときは少数派、話すときは多数派であれ
・人生が終わりに近づいてから生き始めるな
・何か問題が起きたときは自然に収まるのを待て   …etc

『策を弄して生き抜く知恵』25章

・ときには蛇の悪知恵を、ときには鳩の善良さをもってことにあたれ
・人に名誉をあずけるなら、相手の名誉を担保にとれ
・目上の者とは秘密を共有するな
・欲しいものがあるときは、人に譲るふりをしてみせよ
・相手に合わせてマヌケなロバの皮をかぶれ
・失うもののない者と争ってはいけない  …etc

『豊かな知識を身につけよ』7章

・人から知恵を借りよ
・良識なき知識のもたらす害は計り知れない
・洗練された高尚な知識を蓄えよ …etc

*

全部で200章だが、一つ一つが数行、長くて20行ぐらいのコンパクトな文章にまとまっているので、とても読みやすい。

また、章ごとに読み進めたり、気になる箇所から拾い読みできるのも大きな魅力である。

そして、この本の非常に興味深い点は、決して「綺麗事」は書いてないということだ。

たとえば、『人は外見で判断する』という章。

内面を磨くと共に、外見にも気を配れ。世間の人は、ものごとを実質どおりに見ることはなく、外見をそのまま受け取る。
世の中には具眼の士よりも、あっさりと外見にだまされる人間のほうが圧倒的に多いのだ。

本当の話だと思う。

『人の中傷を無視せよ』という章もお気に入りの一つ。

無視することを覚えよ。
欲しいものがあるときは、そしらぬ顔をしてみせるのもひとつの手である。
この世のものはすべて天上のものの影だから、影のような動きをする。
こちらが追い求めれば逃げてしまうし、こちらが逃げれば追いかけてくるのだ。
ずる賢いだけのろくでもない者たちは、一流の人の言うことにいちいち難癖をつけたがる。
真の名声に値するようなことは何一つできないから、優れた人々にくってかかることで間接的にその名を高めようとするのだ。
優れた敵の目にとまり、彼らと論戦を交えることがなかったら、無名に終わっただろうと思われる者が大勢いる。
いずれにせよ、自分と張り合い、打ち負かそうとする者がいるというのは幸せなことだ。

『何か問題が起きたときは自然に収まるのを待て』

事態を収拾しようとして下手に手を出すと、かえって大きな災いを招くことになりかねない。
なりゆきにまかせて、人々の心が正しい方向に向かうのを待つがよい。
賢明な医師は、いつ処置を施せばよいか、また施すべきでないかをよく心得ている。
ときとしては何の処置もしないほうが、患者を快方に向かわせることさえある。
しばらくは時が過ぎ去るのにまかせておけば、やがては騒ぎも収まるものだ。

等々。

「どうしたら幸せに生きられますか? 勝ち組になれますか?」という問いかけに対して、運、才能、努力、様々な要素が挙げられるけども、突き詰めれば「真の知恵のある人」、この一言に尽きる。

才能があり、財産があり、人が羨むようなステータスを手に入れても、愚かな言動で地位と信用を無くすことはあるし、誰にも愛されず、尊敬もされず、孤独のうちに人生を終わる人もある。

本当の幸福の切符は「知恵」の中にしかない、ということだ。

人は獲物を狩るための爪や牙を磨くことに必死になるけれど、それを愚かに振り回せば、自分も他人も傷つける。

時に、狡賢いほどの慎重さと、無謀とも思うような大胆さを使い分け、この人の世を賢く渡って行け──と説く、バルタサル・グラシアン。

あまたの「癒し系」や「ガンバリズム」がどうもしっくりこない方におすすめです☆

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