書籍と絵画

『超訳 ニーチェの言葉』と FOR BEGINNERS『ニーチェ』 ルサンチ野郎の心の出口

2010年4月2日

今、『超訳 ニーチェの言葉』という箴言集がベストセラーになってるんですね。

新聞やニュースでも取り上げられているようで、ビックリしました。

もちろん、昔からのアカデミックな読者には、大衆化された自己啓発的な内容が気に入らないという声もあるでしょうが、ニーチェという哲学者への「興味の扉」としては良いんじゃないかと思います。

人って、何がキッカケで変わるか、分かりませんしね。

ニュース記事によると、30代から40代のビジネスマンはもちろん、もっと若い世代にも人気があるようで、閉塞感やあきらめムードの漂う世の中だからこそ、『これが生だったのか。よし、もう一度!』みたいな、ニーチェの人生を愛する気持ちと、肯定する意志の力が、元気の源になるのかもしれません。

レビューにもあるように、やたら小難しいイメージのあるニーチェですが、彼の哲学は、簡単に言ってしまえば、「自分自身やこの世のことをいかに肯定するか」、この一言に尽きます。

誰だって、自分の思う通りに生きたい。

行きたい大学に行き、なりたい職業に就き、理想の伴侶を得て、お金持ちになって……etc。

でも、現実は、決してそうはならない。

鏡を見れば、美女とは程遠い自分の顔があるし、必死に努力しても試験に落ちる時は落ちる。

頑張って仕事しても、みながみな、褒められ、認められ、出世の階段を上っていくわけではないし、自分では「これでOK」と思っていても、横を見れば、もっとスゴイ奴がちて、リッチで幸せそうな暮らしをしていたりする。

言わば、表には出せない『ルサンチマン=怨念』……不満、葛藤、絶望、嫉妬といったものを内面に抱えながら、思うにならぬ現実に四苦八苦しながら生きている、それが人間だ、と。

かといって、どこにも救いがないわけではなく、ある人は、神の教えに心を委ねることによって安らぎを見出し、ある人は、暗い感情を絵画や音楽や文学に表現することによって昇華し、ある人は、日々の暮らしの中で知恵を磨いて、自分なりの幸せを見出そうとする。

誰もが愚かで無力なわけではないのです。

そして、この根深いルサンチマンを克服し、よりよく生きるための処方箋を生涯かけて考え抜いたのがニーチェで、彼の言葉は、自分自身への戒めでもあります。

確かに彼の言葉は素晴らしい。素晴らしいけれど、一人で実践するには無理がある。

それが分かった時、自分にも、世の中にも素直になって、本当の意味でルサンチマンから解放されるのではないでしょうか。

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本書の中身は、こんな感じだそう・・

これなら1日1ページずつ、気軽に読めますね。

超訳ニーチェ

超訳ニーチェ

上記の画像は他ブログに掲載されていたものです。引用元を忘れてしまいました。お気づきの方があればご連絡下さい!

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この本で『ニーチェ』に興味をもったら、是非とも読んでもらいたいのが、『ニーチェ (FOR BEGINNERSシリーズ イラスト版オリジナル 47)』。

執筆は、『中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ (ちくまプリマー新書)』や『知識ゼロからの哲学入門』など、初心者から玄人向けまで、様々な哲学本を手がけておられる竹田 青嗣さん。

この『FOR BEGGINNER』シリーズも、「ちょっと興味をもった」大学生から20代の読者層を対象にした感じで、コラムマガジンのようにさくさく読める。

それも、のっけから「ニーチェとは」で始まるのではなく、「人間はなぜ悩むのだろう」「なぜ生きるのが辛くなるんだろう」といった若者向けの疑問から始まり、その解決策としてのニーチェの思想が徐々に展開してゆく。

こんな時は、こう考えてみようよ。

ニーチェはこう言ってるよ。

まるで大学の先生のような語り口調で綴られる、「永劫回帰」や自己克服としての「大いなる正午」。

いつしか「小難しい哲学」のイメージは払拭され、一人の悩める人間としてのニーチェ、道を見出そうとする一つの魂が、きっと身近に感じられるはずだ。

本書の特徴は、何と言っても、70年代テイストのサイケデリックなイラストの数々。

バカボンのパパまで登場します。

ニーチェ

FOR BEGGINNER ニーチェ

FOR BEGGINNER ニーチェ

FOR BEGGINNER ニーチェ

FOR BEGGINNER ニーチェ

ちなみに、20代後半、私が下線を引っ張った箇所は、次のようなものだ。
(文章はいずれも竹田 青嗣さんによるもの)

世の理想や道徳や倫理、習俗、といったものに対する違和感

あった、あった(笑) だらけ、だったかも。

青年がその社会に対して抱く平均的な歪み(と感じられるもの)をそれなりに表現している。
しかし、普通は、誰も自分の一生を費やして、この問題を問いつづけることはできない。
……ニーチェはそういった問題を徹底的に考え抜いた一人だった。

これが「凡人」と「天才」の差なのです。もちろん能力もあるけれど、根気と執念がなきゃあね。

生の苦しみの中で、そこから逃げる道は三つしかない。
宗教、芸術、道徳である。
これらだけがそれぞれ独特の仕方で、人間に生の苦悩から脱却し得る可能性を与える。

ここでのニーチェの出発点は、まず、社会がある限り個人の力の差というものは根本的には避けられないという点にある。
そのことをまず「あるがまま」に認めること。
人間のルサンチマンはこの力の差という現実から発するが、それを認めた上でこれをどう処理すればいいかを考えること。

【汝自身を知れ】という名言がありますわな。

これは本当にそう。

人は、自分が外的要因によって変わる方法(仕事とか彼氏とか)ばかりを追い求めるけれど、自分でも自分自身のことを分かっていないのに、どうして他人があなたを理解し、あなたにふさわしいものを与えてくれるだろうか、という事です。

分かりやすく言えば、本当はラーメンが食べたいのに、世間ではトリュフがお洒落だと言っているから、トリュフを食べればみんなに「すごいね」と褒められ、幸せになるだろうと思い込み、トリュフばっかり食べてみたけど、なにか違う、満たされない……というやつです。

ここでニーチェは「人生は私を失望させはしなかった」と書いているが、こういう書き方はむしろ彼の生が不遇なパラドクシカルな表現であるといえよう。そして彼はここで、それにもかかわらず生は、「悦ばしく生き悦ばしく笑うことすらできる」ものだと強調しているのである。

これでますます興味をもって、「著作も読んでみたいな」と思ったら、とりあえず、『ツァラトゥストラ (中公文庫)』をどうぞ。

いろんな訳が出ていますが、中公文庫から出ている手塚富雄さんのものが初心者には読みやすいです。

「ツァラトゥストラ」はガチっとした論文ではなく、小さな節に分かれた詩文のような作品なので、少しずつ読み進めることができますし、洞穴に住むツァラトゥストラも引きこもりのようなキャラクターなので、案外、感情移入しやすいのではないでしょうか。

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ちなみに、ニーチェ自身は幸せだったか・・と言えば、売れないゴッホのような最期ではあります。

だからといって、彼の哲学が間違い、というのではなく、哲学も人生も、間違い探しの為にあるんじゃないですから。

どこか自分で納得できるものが見つかれば、十分に意味があったと言えるのではないか、と思います。

ルサンチ野郎の心の出口は、「幸せ」という扉ではなく、「悟り」の世界に繋がっています。

それはバラ色というよりも、あらわれるような透明感だと思います。

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