音楽

ビョーク 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』&『レオン』

2010年4月30日

メジャーな映画館では公開されなかった、ビョーク主演の映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。

カンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞したものの、あまりにリアルな描写とストーリー運びから、評価は賛否両論に大きく分かれ、日本でも一般に支持されることはありませんでした。

しかし、盲目の主人公セルマを、魂の乗り移るような迫力と天才的な音楽センスで演じたビョークは一躍有名になり、日本でもこの作品を機に多くのファンを獲得しました。

ビョーク扮するセルマは、貧しいチェコ移民のシングルマザー。
プレス工場で働き、唯一の楽しみはミュージカルという空想の世界を創りあげること。
遺伝性疾患のため衰えていく視力と闘いながら、同じ病に侵された息子の手術費用を稼ぐため身を粉にして働く毎日。
そのセルマにあまりに残酷な運命が待ち受けていた…。
「非の打ちどころのないすばらしい音楽の美と、不完全で醜悪な現実が並列して描かれている。同時に演奏する2つのオーケストラのように」と同名の書で評されているように、これほど観る人のあらゆる感情を暴力的なまでに呼び覚ますミュージカルはほかにない。
ラース・フォン・トリアー監督が「ビョークはセルマであり、セルマはビョークだった」と述べたように、ビョークはセルマを演じるというよりも、セルマに心を宿したビョーク自身がメッセージを投げかけているようにみえる。
洗練されすぎたカメラワークを嫌う監督が、100台のカメラを駆使して撮りあげたトリアーワールドは絶対に見逃せない。
本作は2000年カンヌ映画祭でパルムドールに輝いた。【Amazon.comより】

STORY

貧しいチェコ移民のシングル・マザー、セルマは、遺伝的な障害から視力が低下し、全盲になるのも時間の問題でした。
そして、この病気は息子にも遺伝するため、セルマは親友クヴァルダの助けを借りながら、必死で息子の治療費を貯金していました。
しかし、妻の浪費に悩む男友達にその貯金を奪われ、セルマは彼の家に取り返しに出掛けます。
そこで揉み合いになった末、セルマは彼を撃ち殺してしまいます。
セルマはすぐに逮捕され、極刑が言い渡されます。
クヴァルダの弁護も空しく、セルマは絞首刑にされてしまうのでした。。。

この映画の特徴は、こうした悲しい現実と対比するように、セルマの夢の中のミュージカルが展開する点です。

たとえば、工場のプレス機の音が、いつしかダンスのステップに聞こえたり。
刑場に向かう足音が、美しい詩になったり。

現実の場面から夢のミュージカルへ、ごくごく自然に移り変わる演出は、まさに監督の力量によるものが大きいと言えるでしょう。
そしてまた、「幻想」を感じさせないビョークの素晴らしい音楽と歌唱力も見物です。

「映画はキライだけど、音楽は好き」という人が多いのも頷ける話です。

こちらは、セルマを慕う男性が、全盲という悲しい運命に対してさばさばしている彼女に対し、「この世界に、まだまだ見たいものがあるはずだ」と問いかけた時、それに答える形で歌う場面です。


“I’ve Seen It All”

I’ve seen it all, I have seen the trees,
I’ve seen the willow leaves dancing in the breeze
I’ve seen a man killed by his best friend,
And lives that were over before they were spent.
I’ve seen what I was – I know what I’ll be
I’ve seen it all – there is no more to see!

You haven’t seen elephants, kings or Peru!
I’m happy to say I had better to do
What about China? Have you seen the Great Wall?
All walls are great, if the roof doesn’t fall!

And the man you will marry?
The home you will share?
To be honest, I really don’t care…

You’ve never been to Niagara Falls?
I have seen water, its water, that’s all…
The Eiffel Tower, the Empire State?
My pulse was as high on my very first date!
Your grandson’s hand as he plays with your hair?
To be honest, I really don’t care…

I’ve seen it all, I’ve seen the dark
I’ve seen the brightness in one little spark.
I’ve seen what I chose and I’ve seen what I need,
And that is enough, to want more would be greed.
I’ve seen what I was and I know what I’ll be
I’ve seen it all – there is no more to see!

You’ve seen it all and all you have seen
You can always review on your own little screen
The light and the dark, the big and the small
Just keep in mind – you need no more at all
You’ve seen what you were and know what you’ll be
You’ve seen it all – there is no more to see!

セルマ:
私はもう 見たいものは全て見たのよ
木々も見たし
そよ風と戯れる柳の葉も見たわ
人生の途中で、親友に殺された男も見たし、
私は自分が何者だか分かったし
どんな人間になっていくかも分かっている
すべてが見えたから、もう他に見たいものなどないの

男性:
だけどゾウや、ペルーの王様は見てないだろう?
ねえ、言わせておくれ、
中国はどう? 万里の長城は見た?
どんな壁もすごいよ、それが崩れ落ちなければ

どんな男と結婚するか知りたくないかい?
そして彼とどんな家に住むのかを

セルマ:
そんなことは気にならないわ、本当よ

男性:
ナイアガラの滝は見たことがないだろう?

セルマ:
ええ、それも見たわ、ただの水よ

男性:
じゃあ、エッフェル塔は? エンパイア・ステイトビルは?

セルマ:
初めてのデートの鼓動ぐらいに高かったわ

男性:
君の髪に指をからませて遊ぶ孫の顔を見たくない?

セルマ:
もうそんなことは気にならないの、本当に

私はすべて見たの、暗闇も
そこに輝く小さな閃光も
私は、私が見たいものを見て、必要とするものを見たの
それだけで十分なのよ
それ以上欲しがるのは欲張りだわ
自分が何者かもわかったし、
これからどんな人間になっていくかも分かってる
すべてが見えたから、もう他に見たいものなどないの

男性:
君は全てを見たんだね
そして君が見たもの全てを
君の小さなスクリーンに映し出しているんだね
光と闇 大きなものと小さなもの
心の中に刻みこんで
君にはもう何も必要ないんだね

君は自分が何者かわかったし
これからどんな人間になっていくかも分かってる
すべてが見えたから、もう他に見たいものなどないんだね……

こちらは、独房から刑場へと向かうシーン。
恐怖で歩けなくなるセルマと、彼女を励ます看守。
いつしかセルマの頭の中で、ステップを刻む美しいミュージカルが始まります。
哀しくも、夢の広がるような、素晴らしい旋律です。


物語は、リアルな絞首刑の場面で幕を閉じます。
ビョークの絶叫があまりにリアルすぎて耳を塞ぎたくなる人もあるかもしれません。
私はこの場面では滝の涙でした。


こちらはラストシーンから続くエンドクレジットで流れる曲です。
まるで天使のように天国へと舞い上がっていくセルマの姿が目に浮かぶようで、実に感動的。
サウンドトラックである「セルマソングス」の中で、私が一番好きな曲です。
これ、自分の葬式の時にかけてもらってもいいかな……と思うぐらい。
歌詞も素晴らしいです。


“New World”

Train-whistles, a sweet clementine
Blueberries, dancers in line
Cobwebs, a bakery sign

Ooooh – a sweet clementine
Ooooh – dancers in line
Ooooh …

If living is seeing
I’m holding my breath
In wonder – I wonder
What happens next?
A new world, a new day to see

I’m softly walking on air
Halfway to heaven from here
Sunlight unfolds in my hair

Ooooh – I’m walking on air
Ooooh – to heaven from here
Ooooh …

If living is seeing
I’m holding my breath
In wonder – I wonder
What happens next?
A new world, a new day to see

汽車の汽笛 甘いクレメンタイン(みかん)
ブルーベリーに ラインダンスの踊り子たち
クモの巣と パン屋の看板と

ああ、甘いクレメンタイン
ラインダンスの踊り子たち

生きる限り 見つめるわ
息をのんで

ああ、この次は何が始まるの?

新しい世界と新しい日々が
目の前に広がるのね

私はやわらかに空気の中を歩くの
ここからが天国への入り口なのね
私の髪から日の光が放たれるわ。。。

ビョークと映画『レオン』

映画に使われたビョークの曲で最も有名なのが、リュック・ベンソン監督の『レオン』の挿入歌、「少年ヴィーナス(邦題)」こと Venus as a Boy でしょう。

安ホテルに逃れたレオンとマチルダが新しい共同生活を始める場面のBGMとしてかかっています。
(4分ぐらいから)

ベンソン監督は、ビョークのこの曲を初めて聴いた時から、「いつか映画に使いたい」と思い続けていたそうです。
『レオン』はまさにピッタリですね。


オリジナルの歌詞とフィーリング訳はこちら。
映画のイメージと違って、けっこうセクシィな内容です。

his wicked sense of humour
suggests exciting sex
his fingers focus on her
touches, he’s venus as a boy

he believes in beauty
he’s venus as a boy

he’s exploring
the taste of her
arousal
so accurate
he sets off
the beauty in het
he’s venus as a boy

he believes in beauty
he’s venus as a boy

彼のお茶目なユーモア・センスが 
イカしたセックスをしようと言ってるわ
彼の指先が 彼女の肌の感触に集中している
彼は少年のようなヴィーナスなの

彼は「美」というものを信じている
彼は少年のようなヴィーナスなの

彼は 彼女が悦びに目覚める様を 
探って楽しんでいるわ
ええ確かに 彼女は感じてる
彼は興奮して 解き放つ

彼は少年のようなヴィーナスなの

彼は「美」というものを信じている
彼は少年のようなヴィーナスなの

イメージとしては、

「好奇心旺盛な彼と、彼によって悦びを知る彼女との、ロマンティックでスリリングなセックスの情景」

という感じでしょうか。

それが少女マチルダと殺し屋レオンとの奇妙な同棲生活の始まりに流れるのですから、ベッソン監督は、二人が常識や立場を超えた恋人同志であることを表現したかったのかもしれません。

Bjork 関連アイテム

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のサウンドトラック盤――と銘打たなかったところにビョークの並々ならぬ熱意とポリシーを感じます。上記で紹介した3曲はもちろん、プレス工場で踊られる労働者たちのダンスや、裁判所を舞台にしたミュージカルなど、どれも珠玉の出来映え。「映画は見てないけど、このCDは買った」という人も多いはずです。
これ1枚でビョークの実力とカリスマ性を語り尽くしているかのような、完璧なアルバムです。
Amazonにアップされている秀逸なレビューを追加。

MP3アルバム『Selmasongs (EU Version – Music From The Motion Picture Soundtrack “Dancer In The Dark”)』はコチラ。
一曲から購入可能。試聴もできますヨ☆

ラース=フォン=トリアーは稀有な種類の映画監督です。
映画以外に自分の伝えたいものをよりダイレクトに表現する方法があるとわかれば、すぐにでも映画を捨てて新しい世界で苦悩することを選ぶ人です。
わかりにくいかもしれませんが、映画に命懸けな人だということです。
そんな人がミュージカルを撮ろうとし、ビョークに音楽の提供だけを依頼しました。

ビョークも歌手として独自のポリシーを貫く人です。
感情移入しているうちに“セルマ”になってしまったことは容易に想像がつきます。
映画は2つのエゴが対立する結果になりました。

つまり、監督と女優の双方が作品に対しての独自のアプローチで完成を目指したわけです。普通、どちらかがコントロールする側になるんでしょうけれど、ミ!ュージカルという形式が奇跡を生んだのでしょう。
素晴らしい映画となっています。

筋や演出には評価もいろいろあるでしょうけれど、音楽が持つ強さをこれほど表現した映画は少ないです。たぶんこれ以上はドキュメンタリーという分野でしかありえないと思います。

長くなりましたけれど、サントラとしては最高の一品です。アイヴ・シーン・イット・オールを聞くたびに、震えます。映画のエッセンスが半分以上入っていると思います。

「Venus as a Boy」は、『Debut』という初期のアルバムに収録されているのですが、ファン投票により、最近のベスト盤にも再収録されています。
聞き慣れないうちは違和感を感じるかもしれませんが、魅力が分かれば取り憑かれること必至。
個性と哲学を感じさせる、筋金入りのアーティストです。

初稿 : 07/06/21

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