『芸術』の役割 復興へ心踊らせて…オペラ座トップがバレエ指導

2017年9月15日バレエ&オペラ&クラシック

大阪に居た頃、S席1万円~2万円、時には5万円以上もするバレエやオペラの公演に通い詰めて、それはそれはけっこうな金額を注ぎ込んだものです。購入したCDやレーザーディスク(懐かしい・・)、東京公演の交通費や宿泊費なども含めれば、ヨーロッパに5~6回旅行できるほどのお金を使ったように思います。

でも、一方で、『SS席5万3千円』のオペラを観ながらぼんやりと思ったりしたもの。

このチケット代があれば、何人の飢えた子供が救えるんだろう……って。

もう、そんなことを言い出したら、ブランドの服を買うのも、高級レストランで食事するのも、何もかもが贅沢かつ無駄な出費ですよね。
数万とか数十万とか、お買い物できる生活そのものが、地球全体から見ればあり得ないほど贅沢・・そう、それでいて何が不満か? ──という世界です。

そう考えると、バレエもオペラもこの世界に必要欠くべからざるもの……というわけではないし、そもそも、こんな一度の公演を見るために、1万とか5万とか払ってる私たちの存在って、いったい何なのだろう、それでも『芸術』は必要ですか──? なんて、根源的な問いかけまで行き着いてしまうんですね。

そんな長年の問いにきっぱり答えてくれたのが寺山修司。

どこの、どの箇所だったか忘れたけれど(すいません)、「(食糧や衣類と比べて)人間が生活する上で『詩』は絶対的に必要なものではないし、詩人だってこの社会に絶対的に必要な存在ではない。でも、人が生きてゆく上で『詩』が必要な場面は訪れる。そして、詩人とは、そういう(人の心に触れるような)『詩』を書くのが仕事」みたいなことを書いておられて、「ああ、そうか」と納得したのです。

オペラもバレエも、人間が生活する上で、絶対的に必要なものじゃない。まして被災地では住居や衣類や仕事やインフラや、そういうものが優先的に必要に決まってる。

だからといって、住まいを与えれば、十分な食事を与えれば、人は満足し、幸福に感じるか……といえば、決してそうじゃない。

たとえ今日着るものがなくても、何か一つの幸せな体験が生きる力を与えることもある。オペラやバレエは、そうした魂に訴えかけるものの一つだ、と。

ゆえに、今も幾千幾万の傷ついた人々がいる石巻市に、パリ・オペラ座バレエ団のトップダンサー……その分野の人間にとってはハリウッドの有名スターよりまだ価値がある……が訪れ、子供達にレッスンをすることは、今日すぐ町を再建し、壊れた道路を建て直すわけではないけれど、一生の思い出になったでしょう。

もちろん、今日レッスンを受けた子供のすべてが裕福になり、プロのダンサーになるわけではないけれど、この日の出来事を思えば、「世の中には夢みたいに素晴らしいこともある」と心の底から信じられるのではないかな。今、不幸を拗ねてる人だって、明日ビル・ゲイツやレオナルド・ディカプリオとレストランで一緒に食事できるとなれば、神様のサプライズを信じることが出来るでしょうに。

「具体的に意味のあること」だけを探したら、実用的で役に立つものの方がきっと少ないと思います。

おそらく、その他大勢の生活にとってはどうでもいいような、役に立たない、直接的でない、ロマンとか、美しさとか、ときめきとか、親切とかいったものは後回しにされて、「今すぐ結果の出るもの」が有り難がられることでしょう。

だとしても、美しさやときめき──詩や文学や絵画といった『芸術』は、いつか彼らがそれを欲する時まで、野の片隅に力強く咲き続けなければなりません。

地震で家や畑を失って、明日の生活もままならない時、バレエ・ダンサーが何の役に立つのか、と言われたら、まったく直截的でないかもしれない。

けれど、今日、24人の子供たちが、この世界の素晴らしいサプライズを、人の美しさを、信じることが出来たなら、そこには24個の幸福と命が生まれることになる。

それは、もしかしたら、橋を再建するための数千万の資金より、もっと大きな価値があるかもしれない。

そして『芸術』は、目に見えて役に立つわけじゃないけれど、人ひとりの人生を闇から救いあげるほど偉大だと、そんな風に思ったのであります。

君たち、本当に、うらやましいわ。

この体験、いつまでも大事にして欲しいです。

公演で来日したパリ・オペラ座バレエ団のトップダンサーが23日、宮城県石巻市と仙台市を激励に訪れ、東日本大震災で被災した子供たちにバレエを指導した。

あこがれのダンサーのレッスンに、子供たちは目を輝かせた。

石巻市では8~18歳の24人が参加。オペラ座の最高位「エトワール」の一人、ドロテ・ジルベールさん(28)らが、バーにつかまってゆっくり足を上げる動作や回転、ジャンプなどの基本動作を1時間半にわたって教えた。

ドロテさんは「子供たちの笑顔を取り戻したいと思い、ここに来ました」と話した。手ほどきを受けた小学校6年の女子児童(11)は「とってもうれしかった」と興奮した様子だった。