映画

楽天こそ才能 インドの教育・青春映画『きっと、うまくいく』

2017年1月13日

むかーし、ある方と歓談して、「この分野において、21世紀に台頭する国はどこか」という話題になった時、その方は即座に『インド』と挙げられました。

その頃、インドといえば、ガンジーか、映画『スラムドッグ・ミリオネア』みたいなイメージしかなかったですから、

「え~、インドって、カレーのインドですかぁ」

と、ずいぶん間抜けなリアクションをしたところ、その方に言われました。

「今、インドの若者は、もの凄い勢いで学問に取り組んでいるよ。21世紀になったら、君は方々でインドの天才の名前を聞くようになる」

そう言われても全然ピンとこなかったのですが、本当にその通りになりました。

前からその分野では突出していたのだと思いますが、その囲いも突き抜けて、今、世界中に席巻しているような感じです。

私も移住先の美容院でインド人の大学生に出会ったことがありますが、「あなた、ネイティブ?」というくらいに英語が堪能で、IT関連の仕事でこちらに来ているとのことでした。カレーじゃないんですよ、カレーじゃ・・┐(´-`)┌

一方、インドといえば、世界屈指の映画大国で、日本でも『踊るマハラジャ』などが有名ですが、実は、私は一度もインド映画は観たことがない。

興味はあるけど、やはりハリウッドとはテーマもテンポも違い、何となく受け付けなかったのです。

そんな中、『きっと、うまくいく』(2009年公開)というヒット作を初めて鑑賞して、素直に楽しめました。

インドでも大ヒットして、スティーブン・スピルバーグが「3度見た」と大絶賛したらしい、教育&青春映画の秀作です。

内容に関しては、AmazonやWikiや個人ブログでたくさん紹介されていますので、ここでは『楽天こそ才能』(市場ではない)というテーマで感想を述べたいと思います。

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楽天こそ才能

映画の見所はいろいろありますが、一番よかったのは、独特の感性をもつランチョーの『AAL IZZ WELL(きっと、うまくいく)』の教えでしょう。

原題である『3 idiots』(日本風に言えば「3バカ・トリオ」)』は、いずれも超難関理系大学・ICEの男子学生。

それぞれに能力はあるけれど、激しい競争の中で自信を無くし、どんどん心が磨り減っていきます。

そんな学友にランチョーは言います。「心は弱虫だから、騙してやらないといけない」。

そこで歌われるのが、『AAL IZZ WELL』。

私が見た動画の字幕では、次のような訳詞が付いていました。

人生が手に余る時は 唇を丸めろ
唇を丸め 口笛を吹いて こう言え

うまーく いく

鶏は卵の運命を知らない
ヒナ誕生か それとも目玉焼きか

誰も将来のことはわからない

唇を丸め 口笛を吹いて こう言え

兄弟 うまーくいく

All Izz Well

ダンスの場面でわかるように、ランチョーはどんな時も機知と明るさで乗り越える強さがある。

厳格な教授や学長とも堂々と渡り合い、嫌みや攻撃ではなく、ユーモアでさらりと切り返します。

この世に成績のいい人、頭のいい人はごまんといるけれど、肝心なところで勝てないのは、「根本的に自信がなく、悲観的」という理由が大きいですよね。

特に日本は自我の根っこがグラグラして、能力はあるけど、逆にそれが負の財産になって、得た知識や技術の半分も活かせない人が多いのではないかと思ったりもします。

猛勉強して、らくらく高得点を取る能力もあるけれど、根本的に「自分なんか愛されない」とか「社会に必要とされてない」とか「周りにバカにされているような気がする」とか、ネガティブな部分に押しつぶされて、何をやっても不安、何をやっても満たされない、そんな感じです。

だから、目の前に、ランチョーみたいな本物の強さや明るさをもった人間が現れると、途端に心がぐらぐらして、たとえ相手の方が低レベルでも、「こいつに負けるんじゃないか」と焦ってしまう。実際、仕事でも、人付き合いでも、ランチョーみたいな方に運も人気も集まるから、「今までオレが必死に努力してきた事は何だったんだ」と簡単にアイデンティティが崩壊してしまう。その果てにあるのは、人間嫌いであったり、無気力であったり、親や社会に対する恨みであったり、いろいろです。こういう場合、より上のレベルを求めて、ガリガリ努力しても、決して報われません。その人にとってゴールは「勝ち」を自分にも周りにも認めさせることであり、ランチョーみたいな自己肯定からは程遠いからです。

言い換えれば、ポジティブな心の持ち方は、優れた技術や知識にも勝るところがある。

希望やユーモアといった点で、10しかないものを、30にも、50にも膨らませることができるから、落ちても、落ちても、強いです。

悲観的な人から見れば、存在そのものが脅威ですよね。

叩いても、叩いても、こういう人はヘラヘラ~っと蘇ってきますから。

その根拠のない自信はどこから湧いてくるんだ、と訝るかもしれません。

でも、楽天的な人にとっては、そういう問いかけ自体が有り得ない。

「我、ここに在り」という事実だけで全てに納得いくからです。

*

ところで、「楽天」というと、「物事を良い方に考えること」と解釈されることが多いですよね。

「人間、肩書きが全てではない」「コップの水がもう半分、ではなく、まだ半分と考える」「どこからでも道は開ける」みたいな。

でも、自分で納得できないものを無理やり良い風に言い聞かせても、真のポジティブ・シンキングにはなりません。

たとえば、一流大学の受験に失敗したり、希望の会社に就職できなかった時、「人間、肩書きじゃない! 精進、精進! 自分を信じろ!」みたいな理屈を100万回、自分に言い聞かせても、本物の強さにはならないんですよ。

何故って、心の中では「ダメな自分」「思う通りにできなかった自分」を否定し、受け入れられずにいるから。

「一流大学」の代替として、何かを求めたところで、結局は満たされない。

鷹になれなかったヒヨコが、コンドルの王者になろう、人気者のインコになろう、遠く羽ばたくカモメのジョナサンになろう、と意気込んだところで、根本的に「ヒヨコの自分はイヤ」と思ってるから、他の何かになれても、「やっぱり違う」「もっと、もっと」みたいに、飢餓感しか覚えないんですね。

本物の楽天家やポジティブ・シンキングというのは、根っこに「ヒヨコの自分が好き」という確たる思いがあり、その上で、鷹がダメならインコがある、ジョナサンみたいに遠くに行けなくても、七面鳥のように農家ライフを楽しむ道もある、と、考えられることです。

「ヒヨコの自分はイヤ。人気者のインコになれば、満たされる。だから、インコを目指すのだー!!」という、ヘリクツ・シンキングとは本質的に異なります。

そんでもって、ヘリクツ・シンキングに取り憑かれると、それこそ何をやっても満たされず、周りを見ては落ち込む、を繰り返すことになる。

根本的に自分に対する否定的な思いがあるのに、上から綴じ蓋でごまかすように、「前向きな考え方」を言い聞かせても、決して自分のものにはならないですよ。いずれ疲れるだけ。

本物の楽天思考を身につけたければ、まずは自分自身を知ること。そして、受け入れること。

自己に対して否定的であり、こうでなければ許せない人は、どんな思考を身に着けても、思考だけが空回りして、結局、自分自身との乖離に悩むと思います。

*

学問でも、仕事でも、確実に100点取れる人間が100人集まった方が優秀に見えますけど、その全てがマイナス志向では、それ以上伸びません。

それより、70点しか取れなくても、楽天的な人間が100人集まった方が、伸び代は大きいです。

そう考えると、ランチョーみたいな若者であふれかえった国ほど強いですよ。今は下位から2番目でも、そこから伸びてくる勢いが違う。訓練すれば、どんな学生も100点が取れるようになるけど、楽天思考だけは技や口頭で教えられるものではないから、悲観主義が蔓延すると、その先はどうしても頭打ちになります。

真の才能というなら、100点とる知能より、自分自身を肯定して、縦横無尽に枝葉を広げられる考え方でしょう。

それは教えられて身につくものではなく、 小学校、中学校、高校と、成長のいずれかの段階で、自分自身と徹底的に向き合って、「これだ!」と思い至る体験があって初めて会得できるのではないでしょうか。

*

作品は、インド映画らしく、歌あり、ダンスあり、お下品なギャグあり、と、エンターテイメントに徹しており、まったく重苦しさがありません。随所にデフォルメされたキャラクターが登場し(何かといえば「この時計は40万ルピーしたんだぞ!」と価値をお金に換算するヒロインの婚約者など)、マンガ映画みたいなノリです。

上映時間は3時間と長めですが、景気づけに見るにはもってこい。

くさくさした週末などに、気分転換に見ると、少しは気持ちも上向くのではないでしょうか。

作品のテーマである、AAL IZZ WELL(きっと、うまくいく)は、「何もかも自分の思い通りになる」の意味ではなく、「すべて思い通りにならなくても、世の中には、楽しい出会いもあれば、思いがけない幸運もある。きっと、何とかなるさ」という意味です。

そして、そのベースになっているのは、「ヒヨコでも、羊でも、いいじゃないか。ヒヨコはヒヨコらしく生きればいいし、無理に鷹やインコを目指す必要はない。ヒヨコの自分を好きでいれば、それに見合った幸せがやってくるよ」というメッセージだと思います。

映画 きっと、うまくいく

映画のラストシーン。

インドには、こんな美しい場所があるんですね。

ずっともやもやしていた人も、このラストの景色で心洗われるのではないでしょうか。

ウォールのPhoto : http://www.india.com/showbiz/3-idiots-sequel-what-will-aamir-khan-aka-rancho-and-gang-be-up-to-this-time-898128/

案内役のファランの最後の台詞、「まずは実力をつけること。そうすれば成功は後から付いてくる」。

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